大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台家庭裁判所 昭和31年(家)1817号 審判

申立人 遠藤健一郎(仮名) 外(未成年者)四名

右四名法定代理人 親権者母

遠藤つる(仮名)

相手方 遠藤富夫(仮名)

遠藤まつ(仮名)

主文

一、申立人等、申立法定代理人及相手方等は、親族として互に扶け合うこと。

二、相手方等は、申立法定代理人が申立人千代子、同君子と共に現在住んでいる家屋に引続き居住することを認め、

相互に生活上迷惑となるような言動をつつしむこと。

三、相手方等は、申立法定代理人が、その負債を速かに弁済し得るよう申立法定代理人に協力すること。

四、相手方等は、昭和三十二年五月より、向う三年間、申立人千代子同君子の生活費として毎月金参千円宛を各月末日限り申立法定代理人に持参して支払うこと。

三、相手方富夫は、昭和三十二年五月より向う三年間以内に、亡遠藤ふみ所有名義の左記不動産を他に所有権移転するときは、申立人等又は申立法定代理人の同意を求めること。

(不動産の表示略)

理由

申立代理人は、相手方等は申立人等に対し速かに申立人等の生活に必要なる扶助を為すべしとの趣旨の審判を求め、その申立の実情として、申立人等は相手方等の次男鉄郎と申立法定代理人つるとの間に生れた子であるところ、申立法定代理人はさきに昭和二十八年開始した洋裁業が相手方等の妨害のため殆ど来客なく、収入は激減してわずかに和裁によつて、一ヵ月三千円位を得るに過ぎない状態で、日に月に窮乏に陥つているのである。申立人等が受けている申立法定代理人の亡夫鉄郎分の遺族扶助料は洋裁業開始の際に借財の担保となり、その返済のため向う二ヵ年は収入とするに足らず如何に節約するも苦業中であり、又未だ未成年である申立人等を養育するに足らず、その不足を相手方等より扶助を受けなければならない実情であるのに、相手方等は申立人等の窮乏を顧みることなく、生活の扶助をする意思がないのみか、むしろあらゆる手段により、申立人等の生活を脅かし、現に住んでいる家屋に住むことすら困難ならしめ、申立人等がことここに至つたのは、すべて申立人等自身の責任であるとしている現状である。なお、申立法定代理人は和裁を業として月額三千円位の収入があるのみで、しかも和裁の設備資金等の生活資金その他生活費等のため現在約二十万円位の負債がある。亡夫鉄郎戦死により支給を受けている扶助料月額四千円もこの負債の弁済に充てねばならず、手取りはない。相手方等が、現金で扶助ができないなら、相手方富夫所有の不動産を分与してもらいたい。又、扶養料の月額支給は従来の行掛りもあり、その履行容易ならず、向う四、五年間分の一括支給と既往における申立法定代理人の借財を相手方等に負担せしめることを求め、扶養料及負債の支払に関連して、相手方等所有の財産に対し確実なる保全処置を執らるるよう審判を求める次第である、と述べた。

相手方代理人は、相手方等は、相手方富夫所有の宅地百四十七坪の一部の賃貸料、同地上の居宅十九坪五合外一棟の一部の賃貸料及び相手方等の長男一郎戦死による扶助料を合計した月額約一万円がその全収入で公課はこの収入の中から納入するし、相手方等は老齢のため他に収入を得る途がない実情である。本件の解決案として、申立法定代理人の負債中遺族扶助料証書を担保にしている分を代つて弁済し、その代り、申立人等をして相手方等に対する遺留分権を放棄してもらうことにしたい。又、申立代理人が要求する扶養料の一括支払請求に対しては到底応じられない。申立法定代理人の負債については、その額等詳しく知らない。申立代理人が主張する相手方所有の財産に対し保全措置をとることは所有権に対する制約であるから承認できないと述べた。

よつて按ずるに、本件扶養審判事件及本件に関連する当庁昭和三十一年(家イ)第五五六号別居調停事件の手続中に明らかにされている一切の資料(相手方遠藤富夫の戸籍騰本の記載、家庭裁判所調査官斎藤四郎の調査報告書、相手方遠藤富夫審問の結果等)を綜合してみるのに、申立人等は相手方等の次男鉄郎と申立法定代理人つるとの間に生れた子であることを認め得るから、直系血族として互に扶養義務のあることは明らかである。更に右資料を綜合してみるに

(一)  申立法定代理人つるは相手方富夫所有の宅地内に約二坪の小屋を建てて申立人君子、同千代子と共に居住しており、その収入は和裁や編物を業として月に三千円乃至四千円位であり、なお、申立法定代理人は和裁の設備資金等生活資金、生活費等のために生じた借財が早急に返済を要する分だけでも約十万円内外あるものと認められ亡父鉄郎戦死により支給を受けている扶助料月額四千円もこの負債弁済に充てねばならないため、現在手取りはないこと、申立人健一郎及申立人寛は東京都に於て申立法定代理人つるの妹すぎ子の夫に当る山川高市の家に同居し、右高市の援助のもとに修学中であること申立人重夫は、申立法定代理人の許に居つたが、本年二月以降右高市のもとで修学していること。申立人千代子は精神薄弱で気仙沼市内の申立法定代理人つるの実家の世話になつたり、同人の前示現住居に起居したりしていること。

(二)  相手方等は、相手方富夫が亡遠藤ふじの家督相続によつて取得した宅地百四十七坪及本造スレート葺平家建十九坪五合を管理し、その宅地の一部の地代と同地上の居宅の一部の間代合計月額六千円余に加うるに長男一郎戦死による扶助料月額約三千円余、合計して月に一万円内外の収入をもつて生活していること。

以上の事実が認められる。そこで、それらの事実を綜合して考えると、相手方等は右所有不動産を管理しその収入状態は、申立法定代理人のそれよりも、ややゆとりのあることはうかがわれるが、何といつても、相手方等はいずれも老齢であり、反面、申立人健一郎、同寛はやがて学業も終えて生活力を獲得できる身であり、又、申立人千代子、同重夫、同君子は未成年者として扶養を受くべき身ではあるが、その第一次の扶養義務者は同人等の親権者である申立法定代理人つる自身であるから、それらの点を綜合して考えると、相手方両名は、申立法定代理人と共に少くとも、精神薄弱で生活能力の乏しい申立人千代子及未だ義務教育年齢にある申立人君子に対する扶養義務を負担することが相当と認められその具体的程度として相手方両名は、申立人健一郎、同寛が学業を終え、生活能力を取得し、弟妹に対する生活補助をもなし得るであろう時迄、即ち、昭和三十二年五月より向う三年間、申立人千代子、同君子の生活費として毎月金三千円宛を各月末日限り申立法定代理人に持参して支払うことが相当であると判断する。爾後の扶養関係については新たな事情に即応し、あらためて、具体的程度及方法を定めることが適当である。なお、申立代理人は、将来の扶養料の一括支給を求めているが、その要求は、扶養の性質上、これを容認できない。

次に、相手方両名は、申立法定代理人が現に負つているその負債を速かに弁済し得るよう、申立法定代理人に協力することが相当であると判断する。

次に、申立代理人は、相手方所有の不動産の分与を求めているが、これは、相手方等が任意に応ずれば、格別、相手方等が承諾しない以上、他に特別の事由が明らかにされない限り、右分与を求めることは、扶養請求権のみを根拠としては、できないものと考えられる。ただし、申立人等は相手方富夫の相続人としてその財産に対する遺留分権利者に当つていることでもあるし、又、相手方等の本件不動産を所有保全しておくことは、本件扶養義務の履行を確保する意味で必要のことでもあるから、相手方両名は生活費の支払期間として右に定めた向う三年間以内に、その所有不動産を第三者に所有権移転するときは、申立人等又は申立法定代理人の同意を求めることが相当であると判断する。

要は、申立人等、申立法定代理人及相手方両名が親族として互に扶け合う心に目覚めることが本件紛争解決の根本であり、その最少限度の義務として相手方両名は申立法定代理人が申立人君子及千代子と共に、現に居住している家屋に居住することを認め、且つ相互に生活上迷惑となるような言動をつつしむべきことを主文において示すこととする。

なお、本審判主文において示した事項中、第四項以外の事項については家事審判法所定履行確保制度により履行を確保すべきことを附言する。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 市村光一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例